第9章-2 真言について思うこと

自分には、特定の宗教に深い信仰心があるわけではありません。
それでも、現実の心や行動に良い影響を与える“真言(マントラ)”には、
何かしらの力が宿っているように感じています。

数回唱えただけで劇的な変化が起こるわけではありません。
けれど、ある書籍で「般若心経を一万回唱えたところ、不思議な体験をした人がいる」という逸話を読んだことがあります。
そこまで極端な例でなくても、
真言には心を整え、日常を少しずつ変えていく力があるのではないかと思っています。

般若心経の真言
般若心経の最後に唱えられる有名な真言があります。

ギャーテー ギャーテー
ハーラギャーテー
ハラソウギャーテイ
ボージソワカ

般若心経では、この真言を
「大神呪」「大明呪」「無上呪」「無等等呪」
と称えています。

その意味を要点だけまとめると、次のようになります。

Gate(ギャーテー) … 行け

Gate(ギャーテー) … 行け

Pāragate(ハーラーギャーテー) … 彼岸へ行け

Parasamgate(ハラソウギャーテイ) … さらに彼岸へ行け

Bodhi Svāhā(ボージソワカ) … 悟りよ、成就あれ

全体としては、
「悟りの境地へ進め、さらに進め、完全に到達せよ」
という、励ましの祈りの言葉です。

通勤途中に、声に出さず心の中で唱えるだけでも構いません。
この方法を「黙誦(もくじゅ)」と言います。
黙誦するだけで、心が静まり、落ち着いていくのを感じられるはずです。

もし余裕があれば、般若心経全体を暗唱しておくのも良いと思います。
覚えていて損になることはありません。

光明真言について
もし物足りなさを感じるなら、
光明真言を加えるのも良いかもしれません。

光明真言は、サンスクリット語の陀羅尼を音写したものです。

オン アボキャ ベイロシャノウ
マカボダラ マニ ハンドマ
ジンバラ ハラバリタヤ ウン

それぞれの語には、次のような意味があります。

オン(oṃ) … 宇宙の根源の音

アボキャ(amogha) … 不空なる、必ず成就する働き

ベイロシャノウ(vairocana) … 毘盧遮那仏=大日如来

マカボダラ(mahāmudrā) … 大いなる印、悟りの象徴

マニ(maṇi) … 宝珠、智慧の宝

ハンドマ(padma) … 蓮華、清浄の象徴

ジンバラ(jvāla) … 熾盛の光、迷いを焼く光

ハラバリタヤ(pravarttaya) … 転じよ、働け

ウン(hūṃ) … 真理を貫く力の音

真言宗では非常に重視される短い真言で、
唱えることで心が整い、精神的な安定をもたらすと伝えられています。

──ここからは、真言と密教の歴史的背景です──

空海が長安で出会ったのが、
密教の最高位の阿闍梨・恵果(けいか)でした。

恵果は空海にこう告げたと伝えられています。

「私はお前が来るのを知っていた。
密教のすべてを授ける者は、お前しかいない。」

そして、わずか半年という短い期間で、
密教の全伝法(大日如来の教えの体系)を空海に授けました。

空海はそこで初めて、
大日如来を中心とする宇宙観、曼荼羅、三密行の全体像を完全に理解します。

帰国後、空海は
大日如来を日本の中心仏として据え、真言密教を確立しました。

空海が、大日如来を「生きて働く真理」として捉えていたという解釈には、
今でも深い驚きと魅力を感じます。

おわりに
真言は、軽い気持ちで扱うべきものではありません。
それでも、日々の心を整え、静けさを取り戻すための小さな習慣として、
真言は確かな力を持っていると感じています。

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